AH プラス製品概要(用途・成分・種類・臨床シーン)
AH プラス(AH Plus)はDentsply Sirona社の歯内療法用根管充填シーラーで、エポキシ樹脂系の永久根管封鎖材です[1]。ペーストAとBの2ペーストを等量混和して使用する二剤混合型で、主成分はビスフェノールA/F系エポキシ樹脂(ペーストA)とアミン系硬化剤(ペーストB)にX線造影用充填材(酸化ジルコニウム、タングステン等)を含みます[2][3]。従来品AH 26の処方を改良し、硬化時のホルムアルデヒド放出や歯の変色リスクを排除した設計となっており、エポキシアミン反応による自己硬化型で約8時間以内に硬化します[4][5]。用途は(ガッタパーチャポイントなどコア材料との併用)で、一次根管治療から難症例まで幅広く使用されます。基本的に単独で根尖孔の封鎖能を有するため側方加圧充填法・垂直加圧充填法・シングルコーン法など多様な根管充填テクニックに適応し、根管内の残存細菌の封じ込めと緻密な封鎖を目的に使用されます。なお、ペーストタイプ(チューブ入り)のほか、(AH Plus Jet)と呼ばれるもラインナップされており、混和不要でシリンジから直接根管内に注入できる形態も選択可能です。
永久歯の根管充填
AHプラス ジェット
シリンジ一体型自動練和タイプ
評価軸に基づくレビュー
操作性(練和性・根管内注入のしやすさ・可視性など)
操作性の面では、AHプラスはペースト同士を混ぜ合わせるだけのペーストタイプであり、従来の粉液混合型シーラーに比べて練和が容易です[9]。ペーストA・Bは適度な粘度があり練和後の作業時間も長く、室温23℃で約4時間と十分なワーキングタイムが確保されているため、充填操作を焦らず行えます[5]。硬化完了まで約8時間を要するゆっくりとした自己硬化型であり、根管充填中に急激に硬化してしまう心配がありません[5]。混和後のシーラーは適度な流動性(チキソトロピー性)を備え、圧力下でよく流れるため根管内不規則な形態にもフィットしやすいと評価されています[7]。実際、British Dental Journalの製品レビューでも「適切な練和粘度で、わずかにチキソトロピックな性質により圧をかけると良好に流動し、根管系全域への適応が良い」と報告されています[7]。またX線不透過性が非常に高く(競合品より有意に高い)[10]、充填後の根管内でシーラーが薄い膜状に存在する場合でもレントゲン上で容易に確認できる点も扱いやすさの一つです[11]。一方でペーストA(琥珀色)とB(白色)を混和したシーラー自体の色調は淡いクリーム色で口腔内での肉眼的視認性は中程度ですが、不要な余剰シーラーは拭き取り易く、硬化後も歯冠部で目立ちにくい性状です。また、AHプラス ジェット(オートミックスシリンジタイプ)を用いれば練和の手間を省き直接根管内に注入可能で、チェアタイム短縮や均一混和による操作の簡便性が得られるため、操作性は一段と向上します[8]。総じてAHプラスの操作感は良好であり、適度な粘稠度によりポイント先行充填・シーラー塗布のいずれの手技でも扱いやすく、シリンジタイプの選択肢も含めユーザーフレンドリーなシーラーと評価されています。
症例適応(難治性根管・再治療・狭窄根管などへの適応性)
症例適応について、AHプラスはスタンダードなエポキシ系シーラーとして一般的な根管治療症例の大半に適用可能です。湾曲や分岐の多い根管、側枝や峡部を有する複雑な根管系においても、その良好な流動性と細かいフィラー粒子径によって根管壁との間に薄く行き渡り、微小な隙間を埋める封鎖が期待できます[7]。実際、難渋症例で問題となる細い側管や不規則な根管形態にもシーラーが行き渡るかは重要ですが、AHプラスは圧をかけることで流動性が高まる特性により、側枝や細隙への到達性に優れるとされています[7]。また耐熱性も高く、約250℃までの加熱に耐えるため[5]、難治症例で用いられるウォームガッタパーチャ(加熱垂直加圧充填法等)にも十分対応可能です。根尖部の治癒促進効果といった生物学的積極作用(バイオアクティブ性)は持ちませんが、長期の臨床実績に裏打ちされた安定した封鎖性で慢性根尖病変を含む症例でも良好な予後を示す報告があります[12]。一方で再根管治療(抜髄後の再治療)症例での留意点として、AHプラスは硬化後に強固なエポキシ樹脂となるため除去の難度が高い点が挙げられます。北海道医療大学の伊藤らの研究では、各種シーラーの根管充填後の除去性を比較した結果、AHプラスは他のシーラーと比べ除去に極めて時間を要し、10分(600秒)以上かけても全て除去できないケースがあったと報告されています[13][14]。同研究でAHプラス使用群の根管壁には、再治療で大部分のシーラーが除去できた他材に比べ約60%以上のシーラー残存率が観察されており、再治療時の難しさが示唆されています[14]。したがって将来的な再治療リスクが高いケースでは、AHプラスの強力な接着性・不溶性がデメリットとなり得る点に留意が必要です。ただし実臨床では、キシレンやクロロホルム系溶媒で軟化させる、超音波チップで振動除去する等の手段で再治療は可能であり、抜去歯実験ほど極端に除去不能となるわけではありません。また可及的に根管内を無菌化した上で密封すること自体が再感染リスク低減につながるため、初回根管治療を確実に成功させるという観点ではAHプラスの強固な封鎖性はむしろ有益です。狭窄根管や石灰化根管に対しても、流動性と低膜厚性に優れたレジンシーラーであるAHプラスは、練和時にレントロスパイラルやファイル先端で根管全長に送り届けやすく、有効と考えられます(十分な根管洗浄・通過性の確保が前提)。総じて、AHプラスは通常の単根管から複雑な多根管・難治症例まで幅広く適応できるオールラウンドなシーラーですが、再治療時の除去難易度が相対的に高い点は認識しておく必要があります[13]。
連携性(他社材料・機器との併用可否・整合性)
他材料・機器との相性(連携性)について、AHプラスは様々な根管充填法およびコア材と併用可能で汎用性が高いとされています[7]。たとえばガッタパーチャポイントとの親和性が良好で、側方加圧法による多本数ポイント併用や垂直加圧法での加熱軟化ポイントとの併用、さらにはシングルコーンテクニック(一本のマスターポイント+シーラー充填)に至るまで、どのような根管充填術式にも適合します[7]。AHプラス自体に自己重合型の接着性があり、硬化後は根管内象牙質に対して付着・封鎖するため、ガッタパーチャとの間に薄いシーラー膜を形成することで高い緊密性を発揮します[7]。その膜厚は約26µmとISO基準(50µm以下)を十分クリアしており、コア材との隙間を最小限に保てる点も多様な手技で優れた成績を示す一因です[15]。またX線造影性が高いため、連携する画像診断との相性も良く、他社製を含むどの根管長測定器やデジタルX線装置でも充填状態を明瞭に確認できます[11]。NiTi製のファイルとも特段の整合性問題はなく、根管内にシーラーを塗布する際にステンレス鋼やNiTi製のスプレッダー・ブローチ等で操作しても器具が腐食されたりシーラー性能が損なわれることはありません。強いて言えばエポキシ樹脂は硬化後に器具表面へ付着すると除去が困難なため、使用したファイル類は直後にエタノールなどで清拭することが推奨されます。
他材料との化学的相性に関しては、AHプラスはユージノールを含まないため、充填後にレジンコアやファイバーポストを接着する場合でも残存シーラーがレジン系接着剤・レジンセメントの重合を阻害しにくい利点があります[16]。古くから指摘されるように、酸化亜鉛ユージノール系シーラーは残存ユージノールがレジンの重合を阻害して接着力を低下させる恐れがありますが[16]、AHプラスはエポキシ系であるため補綴処置との親和性も良好です。実際、欧米では2000年代以降、ユージノール系に代わりエポキシレジン系シーラーが第一選択となる傾向が強まったことが報告されています[17]。ただし、NaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)による根管消毒との関連では、エポキシ樹脂の接着性がNaOCl残留により低下する可能性も指摘されています[18]。そのため根管内をEDTAで最終洗浄してスメア層を除去し、余分なNaOClや水分を十分に除去してからシーラーを適用することが推奨されます。AHプラスは熱にも安定なので、熱軟化ガッタ法(システムBなど)やCarrier-basedシステム(ThermafilやGuttaCore等)でも性能低下なく使用できます[5]。また他社製の紙ポイントで根管乾燥後、AHプラスを塗布してからガッタパーチャポイントを挿入する手順も問題なく行えます。要するに、AHプラスは他の器材・材料との互換性が高く、ユニバーサルに使用できるシーラーと言えます。
価格帯・コスト(市場価格帯、他製品との比較)
価格面では、AHプラスは歯科医院向け市場で中価格帯の根管シーラーとして位置付けられます。メーカー希望小売価格は1セットあたり約1万円前後(例:チューブタイプ スターターセットで9,800円[19])で、内容量や販売ルートによって多少変動しますが8千~1万数千円程度で流通しています。シリンジタイプのAHプラスジェットは利便性向上の分やや高価で、ミキシングチップ等の使い捨て部材コストも加わりますが、それでも1症例あたり数百円以下と算出される場合が多く、根管治療全体のコストに占める割合は大きくありません。競合製品と比較すると、古典的な酸化亜鉛ユージノール系シーラー(例:パルプカナルシーラーEWT等)は粉液セットで数千円台と安価ですが頻繁な練和が必要でロスも多い傾向があります。一方、近年普及してきたMTA系・生体セラミック系シーラー(後述)は1本あたり1万円以上と高価なものもあり、AHプラスはその中間的価格帯と言えます。例えば、MTA含有シーラーの代表製品MTAフィラペックスはシリンジ1本(4g)で定価6,600円[20]、Bio-Cシーラー(改良型生体セラミックシーラー)は1本約12,000円の定価設定[21]であり、AHプラス(合計約8gで1万円程度)はグラム単価では中程度です。コストパフォーマンスの観点では、AHプラスは長年の臨床実績と性能安定性を備えつつ、極端に高価ではないため導入しやすい価格帯と評価されます[22]。また開封後もチューブ口をしっかり密閉すれば保存性が高く、数多くの症例に使えるためランニングコストも良好です。一方で、安価なシーラーを求める場合は国産の水酸化カルシウム系や廉価版レジンシーラーも存在しますが、性能・安定性・資料の蓄積という点でAHプラスの信頼性は価格差以上の価値があるとの声もあります。総じてAHプラスの価格帯・コストは、最新材料ほど高価ではなく保険診療にも支障なく使用できる現実的な範囲であり、費用対効果に優れた製品と言えるでしょう。
品質・耐久性(封鎖性、長期安定性、変色リスクなど)
品質・耐久性の観点では、AHプラスはその優れた物性により長期に安定した根管封鎖性を維持できるシーラーとして定評があります[23]。エポキシ樹脂ベースのため硬化後の収縮率が極めて低く(ポリマー収縮約1.5~1.7%と僅少)、寸法安定性が高いことが実験的にも示されています[24]。例えば、AHプラスの重合収縮は1.76%と報告され、他のシーラー(例:ある種のグラスアイオノマー系で18%もの収縮を示す製品もある)のような大きな体積変化を起こさない点は大きな利点です[24]。また水中溶解試験においても溶解度がごく低く、長期間根管内に留まり封鎖性を損なわないことが知られています[25]。これらの性質により、AHプラスは微小漏洩が少なく長期的なシールを実現できると考えられます。事実、Ballalらの研究(2015年)では各種シーラーの染料漏洩を比較し、AHプラスは古典的シーラー(酸化亜鉛ユージノール系や水酸化カルシウム系)より明らかに漏洩が少なく、バイオセラミック系シーラーに次ぐ良好な封鎖性を示しています[26][27]。特にZOE系やCa(OH)_2_系が経時的に溶解・収縮しやすい欠点を持つのに対し、AHプラスは不溶性・低収縮でそれらを克服した点が品質上の優位性です[28][29]。
接着強度の面でも、AHプラスは硬化後に象牙質へ化学的に結合する自己接着性を持ち、根管内での圧着力・付着力が高いことが報告されています[7]。International Endodontic Journalの報告によれば、AHプラスとガッタパーチャの単一ポイント充填は他のシーラーよりも高い結合強度を示し、歯根破折抵抗性にも有意な悪影響を与えないとされています[30]。これはシーラー自身が長期間にわたり安定して歯質に留まることを意味し、根管内で再感染の経路をしっかり遮断できることに繋がります。
生物学的適合性に関しては、AHプラス硬化体は長期的に生体親和性が良好(組織適合性「非常に良い」)とメーカーから報告されています[31]。ただし、硬化前のペースト状態ではエポキシモノマーやアミン硬化剤による細胞毒性が指摘され、接触すると一時的な炎症反応を引き起こす可能性があります[32]。実際、一部の研究ではAHプラスが硬化直後に中程度の炎症反応や細胞毒性を示すが、7日後には低下するとの結果もあります[32]。従って、根尖部からシーラーが過剰に逸出した場合、一過性の炎症や不快症状(術後疼痛)を生じるケースがありますが、通常は時間経過とともに沈静化し、長期的な生体への悪影響は少ないと考えられます。むしろ、AHプラスには旧来のAH26に存在したホルムアルデヒド徐放性がなく変色や毒性の懸念が解消されている点が評価できます[4][33]。AH26では硬化過程で放出される微量ホルマリンに起因する歯質のグレイ変色が問題となりましたが、AHプラスではそれが完全になくなり、硬化物による歯の変色リスクは事実上ゼロとされています[31]。実際の研究でも、AHプラスは4か月後の歯冠変色量が極めて低く、他の材料(MTA系やZOE系)と同等に審美障害を起こしにくいとの結果が報告されています[34][35]。以上のように、AHプラスは物理的・化学的品質の高さ(高い密封性・安定性)と、生体適合性にも配慮された耐久性を兼ね備えており、総合的に「ゴールドスタンダード」と称されるゆえんとなっています[32]。
ユーザーの声(口コミ・満足度・メリット/デメリット)
ユーザーの声を総合すると、AHプラスは歯科医師からの信頼が厚い定番シーラーとして概ね高い評価を得ています。多くの臨床家が「シーラー選択に迷ったらAHプラスを使っておけば間違いない」と述べるほどで、その理由として「扱いやすく封鎖性も良いバランスの取れた製品」である点が挙げられます[7]。実際に10年以上AHプラスを愛用しているというエンドodontistからは「流動性が高く、根管の隅々まで行き渡る感じが安心できる」「練和後も適度な粘度でポイントが沈み過ぎずコントロールしやすい」といったポジティブな意見が聞かれます。また「X線でしっかり写るので充填評価がしやすい」「硬化後の安定性が抜群で再発が少ない」ことも頻繁に言及されるメリットです[11]。メーカーによるプロモーションでも「長期にわたる密封性と高い寸法安定性、自己接着性により封鎖性を維持できる」点が強調されており[23]、実際にその通りの臨床結果を実感しているユーザーが多いようです。
一方、デメリットや不満点として時折挙がるのは「再治療時に除去しにくい」「硬化が遅いため患者によっては術後に多少の違和感が出ることがある」「手に皮膚炎症状が出た(エポキシアレルギーの可能性)」などです。ただし除去性に関しては前述のように実験条件下で顕著なだけで、臨床では適切に対処可能との声も多く、「よほどのことがない限りAHプラスを使った治療をやり直す機会自体が少ない」(=成功率が高い)とも言われます。また硬化時間の長さについては、「長い操作時間のおかげで複数根管の充填も焦らず確実にできる」と肯定的に捉えるユーザーもいます。自動練和型のAHプラスジェットに関しては、「確かに便利だがコスト増になる」「チップの洗浄ができず廃棄がもったいない」といった意見があるものの、「安定した混和で練和ムラがなくなり品質が向上した」「スタッフでも取り扱いやすい」と概ね好評です。
総じて、AHプラスはユーザー満足度が高いシーラーであり、多くの歯科医師がメリットとして挙げる封鎖性・操作性・信頼性の高さがその人気を支えています。一部で台頭している新しいバイオセラミック系シーラーに乗り換える動きもありますが、「様々な面から総合的に判断すると結局AHプラスに戻ってくる」との声もあり、依然として根強い支持を集めています[22]。現場の口コミからは、「派手さはないが必要十分な性能を長年示している安心感」「文献データが豊富で説明しやすい」「欠点が少なく万人に勧めやすい」という評価が多く聞かれ、プロフェッショナルから初心者まで幅広い層に受け入れられていることが窺えます。
類似製品との比較・優位性
根管シーラーには各種の系統が存在し、AHプラス(エポキシレジン系)と競合・代替関係にある製品も多く市販されています。それぞれ長所短所が異なるため、以下に主要な類似製品との比較とAHプラスの差別化ポイントを解説します。
シーラペックス(Sealapex)など水酸化カルシウム系シーラーとの比較
水酸化カルシウム系シーラーは、Sealapex®(シーラペックス、Kerr社)に代表されるように、Ca(OH)_2_成分を含有することで高アルカリ性による殺菌作用や硬組織誘導能を謳ったシーラーです。シーラペックスは粉液二剤型で硬化後も組成中の水酸化カルシウムからOH^-イオンが放出され、抗菌効果や組織親和性を期待して開発されました[36][37]。一方で物理的特性としては脆弱で、経時的に溶解・崩壊しやすい傾向が指摘されています[36][38]。実際、複数の漏洩実験で水酸化カルシウム系シーラーは他系統に比べ著しい封鎖不良(染料漏洩が多い)結果が示されており、「長期安定性に欠ける」と評価されています[29]。AHプラスとの比較では、封鎖性・寸法安定性・耐溶解性の点でAHプラスが明らかに優れています[26][27]。Ballalらの研究でも、AHプラスはシーラペックスより漏洩が有意に少なく、シーラペックスはZOE系と並んで最も漏洩の多いグループとなりました[26][27]。これは水酸化カルシウム系が硬化時に収縮したり、時間経過で溶解・吸収されやすいためと考えられます[28]。加えて、シーラペックスなど初期のCa(OH)_2_系はX線造影性が低めで充填評価が難しいという欠点もありました(後発のApexit Plusなどは改善)。一方、Ca(OH)_2_系の利点としては生体親和性の高さ(刺激が少ない)や、硬化物が脆いため再治療時に除去しやすい点が挙げられます。実際、水酸化カルシウム系シーラーは器具で掻き出しやすく、残留しても生体への悪影響が少ないため、小児の乳歯根管充填や根尖部への余剰充填許容が必要な場合には適しています。しかし、永久歯の長期予後や再感染防止を重視する観点では、物性が安定したAHプラスの方が信頼できるとの意見が多いです[22]。総合すると、Ca(OH)_2_系シーラーは生物学的コンセプトは魅力的なものの、封鎖性・耐久性でAHプラスに劣りやすいため、近年ではあまり第一選択とされず、AHプラスへの置き換えが進んでいます[17]。AHプラスはCa(OH)_2_系にはない高い機械的強度と長期シールを提供する点で優位性があります。
パルプカナルシーラーEWTなど酸化亜鉛ユージノール系シーラーとの比較
酸化亜鉛ユージノール系(ZOE系)シーラーは、最も古典的な根管シーラーの一つで、酸化亜鉛粉末とユージノール液の混合により硬化する材料です[37]。代表例としてKerr Pulp Canal Sealer EWT(Extended Working Time)があり、長年にわたり世界中で使用されてきました。ZOE系の利点は、初期の強力な抗菌性(ユージノールの殺菌作用)と、操作時間を調整できる点、低価格である点です[39]。しかし決定的な欠点として、硬化時に収縮しやすいこと、経年的に溶解・吸収されやすいこと、さらに組成によっては歯の変色を招くものがあることが挙げられます[40][41]。例えば古典的なRickert型シーラー(ZOE+銀粉)は歯根内で銀が硫化して歯質を黒変させる問題があり、現在は銀を含まない非変色性ZOEシーラー(例:Grossman処方)に置き換えられました[42][37]。それでもユージノール系全般に、硬化時の体積変化や水中での溶解傾向があるため、封鎖性・耐久性では樹脂系に劣るとされています[43]。AHプラスとの比較では、やはり長期封鎖性で大きな差があり、ZOE系は時間経過でシールが甘くなるリスクがあります[29]。実験的にもZOE系シーラー(例:Roth 811)はMTA系に比べ重度の変色や高い漏洩を示すことが報告されており[44][45]、物理的安定性でAHプラスに見劣りします。
一方、ZOE系の優位点としては、ユージノールによる鎮静効果で術後疼痛が少ないとの経験的報告や、比較的軟らかい硬化物のためリトリートしやすいことが挙げられます。根管充填後にファイルなどで掻爬すると塊状に除去できるため、再治療時の除去性はAHプラスより良好です。また歴史が長く症例蓄積が豊富なため、一部の熟練歯科医は「長期経過で問題ないケースも多い」とZOE系を支持することもあります。しかし近年は、ユージノールがレジン接着を阻害する欠点[16]や、そもそもレジン系シーラーの台頭で相対的に使用頻度が低下しています[17]。AHプラスはZOE系に比べ寸法安定・不溶・高強度で、「シーラーは薄いほど良い」という根管充填の原則にも適っています[46]。また変色リスクもAHプラスでは完全になくなっている[31]ため、前歯など審美領域でも安心です。総合すると、ZOE系シーラーは手頃さと実績はあるものの、品質安定性と汎用性に優れるAHプラスの方が総合評価で勝ると言えます。特に現代歯科で求められるレジンコア併用や長期予後重視の観点では、AHプラスへの置換がほぼ標準となっています。
Bio-C SealerやMTAフィラペックスなどバイオセラミック系シーラーとの比較
近年登場したバイオセラミック系シーラー(生体活性セラミック系シーラー)は、MTA(Mineral Trioxide Aggregate)やカルシウムシリケートを主成分とし、水分との反応で硬化・水酸化カルシウムを放出する新世代のシーラーです[47]。代表例として、エンドシーケンスBCシーラー (EndoSequence BC Sealer)、バイオシーシーラー (Bio-C Sealer)、MTAフィラペックス (MTA Fillapex)などが挙げられます。これらは硬化時にわずかな膨張性を示し(例:MTAフィラペックスは硬化時に膨張して高い封鎖性を発揮[48])、根管内でハイドロキシアパタイト生成を促すことで自己封鎖能力の向上や歯質との化学的結合が期待できます。また高アルカリ性(pH11–12)を維持し根管内細菌に対して持続的な抗菌性を示す点も特徴です[48][49]。生物学的には極めて高い組織親和性・封鎖後の封鎖性回復力が報告され、実験的に他系統より漏洩が少ないデータも多く、Ballalらの染色漏洩比較でも最も漏洩が少ないのはEndoSequence BCシーラーでした[26]。そのため「次世代の根管シーラー」として注目度が高く、シングルコーン法との併用で手技簡略化と高封鎖性を両立できる点が推奨されています[50]。
AHプラスとの比較では、封鎖性能に関してバイオセラミック系がやや優位との報告が複数あります[26]。特に湿度下でも硬化し自己封鎖する特性から、根管内の湿潤環境に左右されにくい点はAHプラスより勝っています。また生体親和性の面でも、組織への刺激が少なく異物反応が極小であるとの研究があり、根尖部への逸出時の安全性も高いとされます。一方、操作性や他材料との相性ではAHプラスに優位性があります。バイオセラミック系は多くが単一ペースト製剤(事前練和済みシリンジ)で、そのまま使える反面、一度開封すると吸湿硬化しやすく保存性に難があります。また硬化後は極めて硬く脆いため根管内での付着が強固になり、再治療時に除去困難なケースも報告されています(樹脂系と難易度は概ね同等かそれ以上との指摘もあり)。さらに、現時点では臨床使用歴が浅く、長期的エビデンスの蓄積という点でAHプラスに及びません[22]。価格も前述のように割高なものが多く、導入ハードルになる場合があります。総合すると、バイオセラミック系シーラーは封鎖性・生体適合性で有望な一方、実績や汎用性ではAHプラスがなお勝る状況です[22]。現に日本の保険診療下ではエポキシ系(AHプラス等)が主流であり、バイオセラミック系は自費治療や専門医療で徐々に採用が増えている段階です。AHプラスは「現代のゴールドスタンダード」、バイオセラミック系は「将来のスタンダード候補」とも評されており、それぞれメリットを活かして使い分けられています。
本製品が向いているユーザー像
AHプラスは、その扱いやすさと信頼性の高さから幅広いユーザー層に適した製品です。まず、エンド治療専門医から一般開業医まで、多くの歯科医師が標準シーラーとして導入しており、エビデンス重視で確実な予後を求めるユーザーに向いています[12]。具体的には、根管治療の成功率向上を図りたい一般歯科医院、根管充填において失敗の許されない補綴前提の症例を多く扱う医院などで有用でしょう。保険診療中心の医院でも、AHプラスは費用対効果が良いため採算を圧迫せず導入でき、患者説明にも「実績ある信頼性の高い材料」として安心感を与えられます。
また、根管治療の経験が浅い歯科医師にとってもAHプラスは扱いやすい選択です。混和や操作に特別なテクニックを要さず、ワーキングタイムも長いのでじっくり充填できます。ミスが生じにくい材料特性により、初心者でも安定した結果を得やすいでしょう。逆に、マイクロスコープ下で高度な根管治療を行うスペシャリストにとっても、AHプラスの高いシール性とX線造影性は精密治療の品質保証になります。複雑な根管形態の症例や外科的歯内療法(逆根管充填など)でも、AHプラスの信頼性により安心して処置を進められるとの意見があります。
診療スタイルで見ると、従来からの側方加圧法を続けているクリニック、あるいは最新の温熱垂直加圧法やシングルポイント法を導入しているクリニックのいずれにもマッチします[7]。多様なテクニックに対応できるため、自院の流儀を問わず適応できる柔軟性があります。また、根管充填後にファイバーコアやレジン築造を即日行うような医院では、AHプラス使用によりユージノール系シーラーのような接着阻害を心配せずに済むため、補綴一貫処置をスムーズに進めたいユーザーにも向いています[16]。
一方、特殊なケースとして、患者さんがエポキシ樹脂にアレルギーを持つ場合や、将来的なリトリート前提で一時的な根管充填をする場合(仮封的な長期貼薬など)はAHプラスは適しません。そのような場合はZOE系やCa(OH)_2_系の方が望ましいでしょう。しかしそれらは限定的なケースであり、ほとんどの一般的症例ではAHプラスが最適解となりえます。総じて、「根管充填の質にこだわりたい」「信頼できるオーソドックスな材料を使いたい」という歯科医師にとって、AHプラスはピッタリのユーザー像と言えます。加えて、材料選択に迷った際にも文献的裏付けが豊富なAHプラスであればスタッフや患者への説明もしやすく、組織的にも採用しやすいでしょう。
導入時の注意点(導入コスト・事前知識・使用条件・サポートなど)
AHプラスを導入する際の注意点として、まず製品選択とコストがあります。チューブタイプとシリンジタイプ(ジェット)があるため、クリニックの規模や使用頻度に合わせて選択します。少症例ならチューブセット(手動練和)でも十分ですが、症例数が多く時短を図りたい場合はAHプラスジェットの導入が有用です。ジェットは専用ミキシングチップを使い捨てる必要があり多少コスト増となるため、必要本数を見積もって発注します。スターターキットには基本的にペーストA・Bと練和紙片やスパチュラ等が含まれますが、練和用パッドやルートキャナルシリンジなど必要なら別途揃えます。
事前知識としては、エポキシ系樹脂の取り扱い注意事項を理解しておくことが重要です。具体的にはペーストが皮膚や粘膜に付着しないようグローブ・ゴーグルを着用する、安全域を超えて根尖部に圧送しない、万一付着した場合は速やかにアルコール綿等で拭き取る、といった基本事項です[51][52]。また温度が低いと硬化反応が遅れるため、冷蔵庫保存している場合は使用前に室温に戻す必要があります[53]。練和比率はA:B=1:1ですが、目分量でなく付属の計量スケールや等長のペーストを出すなどして正確に計量するよう指導します(過不足があると硬化不良の原因になります)。使用条件としてはラバーダム防湿下で唾液や血液と接触しないよう処置することが推奨されます[54]。湿気の多い環境では硬化に影響する可能性があるため、根管内はペーパーポイントで極力乾燥させておきます。
メーカーサポートに関しては、Dentsply Sirona社から製品カタログや取扱説明書(IFU)、そして学術的なサポート文献(いわゆるサイエンティフィックコンペンディウム)が提供されています[55][56]。導入にあたって不明点があればメーカー代理店や学術担当者に問い合わせることで、最新の知見や使用方法のアドバイスを得られるでしょう。また、日本歯内療法学会などの学術集会でもAHプラスに関する研究発表や講演が多数あり、導入前に文献調査することで製品理解を深めることができます。メーカーの研修会(エンドセミナー)でAHプラスの使用手順を学べる機会もあります。
最後に廃棄・感染対策ですが、AHプラスジェットのシリンジ本体やミキシングチップは単回使用が推奨されており、再滅菌による再利用はできません[57]。使用後のチップや余剰ペーストは固化させた上で医療廃棄物として処理します。器具に付着したシーラーはアルコールで拭き取り、固着した場合は研磨や溶媒で除去します。診療室内での取扱では、レジン系材料なので床や衣服に付くと取れにくいため、練和時に紙シートを敷くなど環境保護にも留意します。
以上を踏まえれば、AHプラスの導入に際して大きな障壁はなく、適切な知識と準備のもとスムーズにクリニカルワークフローへ組み込める製品です。実際、多くの医院がこの製品を問題なく運用しており、導入後も安定した性能とメーカーサポートにより安心して使い続けられるでしょう[22]。
Dentsply Sirona社 AH Plus® 製品カタログ・取扱説明書[58][2][3][6]
伊藤修一 他: 「レジン系シーラーの根管封鎖性および除去性の評価」, 日歯内療誌44(1):27-35, 2023[13][14]
Ballal et al. (2015): 各種根管充填材の染料漏洩比較 – Fukuyama Dental Clinic ブログ記事[26][27]
FEEDデンタル 製品紹介ページ「AHプラス 根管充填シーラー」[9]
British Dental Journal Trade News: “AH Plus Sealer” (Vol.200, 2006)[7][11]
Mohammadi et al. (2020): “Calcium silicate-based root canal sealers: a literature review” (PMC7431927)[32]
OralStudio 製品情報: 「AHプラス – レジン系根管充填シーラー」[1]
シエン社 歯内療法記事: 「シーラーの役割・選択」[16]
(その他、Dentsply Sirona公式サイト、各種ユーザー口コミサイトの情報を適宜参照)
[5] 歯科用根管充填シーラー AH プラス - J-Stage
[7][11] AH PlusTM Sealer | British Dental Journal
[8][9] 〖FEEDデンタル〗AHプラスの通販|根管充填シーラー
[10] [PDF] デンツプライシロナ 歯科材料総合カタログ
[12][30] Comparison between AH plus sealer and total fill bioceramic sealer ...
[17] 根管充塡用シーラーと根管充塡法に関する基礎知識
[18] 接着性根管シーラーの現状と臨床 - J-Stage
[19] [PDF] AH Plus - Dentsply Sirona
[20] 歯科用根管充塡シーラ MTA フィラペックス - Dental Tribune Japan
[33] [PDF] Comprehensive Review Of Current Endodontic Sealers - DUNE
[46] [PDF] 成功率を高める 世界基準の歯内療法 - Gc.dental
[47] Bio-CシーラーとAH-Plusの歯管侵襲と適応性.SEMによる比較評価
[48] バイオ シー シーラー(Bio-C Sealer) | 商品詳細 | 株式会社ヨシダ