inLab MC X5(インラボ エムシー エックスファイブ)は、デンツプライシロナ社が提供する歯科技工向けの5軸制御CAD/CAMミリングマシンです。ブロック材料だけでなく直径98.5mm(厚さ最大約30~35mm)の標準ディスクにも対応し、湿式加工と乾式加工の両方が1台で可能な汎用性が特徴です[1]。ジルコニアやセラミックス、レジン、ワックス、さらには一部の素材まで、多様な歯科補綴材料の加工に対応します。これにより、クラウン・ブリッジなどの一般的な補綴物から、インプラント上部構造やサージカルガイド、フルアーチブリッジ等の高度で大きな症例まで、幅広い臨床シーンで活用できる生産ユニットです。
本機はオープンプラットフォーム設計を採用している点も大きな特徴です。従来のシロナ製システムは自社CADとの連携が中心でしたが、inLab MC X5では他社製CADソフトで設計されたSTLデータを用いた補綴物の製作が可能となり、既に他社CAD/CAMを運用しているラボにも導入しやすい開放性を実現しています[7][8]。デンツプライシロナ製のinLab CADソフトウェアやスキャナー(inEos X5)との組み合わせによるシステム展開も可能ですが、単体のCAMモジュールを備えているため外部CADシステムとも柔軟に接続できます[8]。このように高度な汎用性と独立性を持つ本機は、デジタル技工における院内ラボや歯科技工所の生産効率向上と内製化ニーズに応えることを目的に設計されています[1]。なお、本機の国内医療機器区分は「歯科技工室設置型CAD/CAM装置」でクラスIに分類され、参考定価は約700万円前後です[9][10]。
症例適応(対応可能なケースの広さ): inLab MC X5は対応可能な補綴物の種類が非常に幅広いことが評価されています。単冠やベニア、インレーといった小さな修復物から、ブリッジフレームやフルアーチ(全顎)ブリッジ、さらにはインプラントのカスタムアバットメントやバー、サージカルガイド、フルデンチャー用模型の製作まで網羅しています[16][5]。特に5軸加工によって深いアンダーカットや複雑なインプラントのスクリューチャンネルにも対応できるため、複雑な形態や多数歯にわたる症例でも一貫して自社内製作できる点が大きな利点です[6]。例えば、従来の小型4軸機では難しかったやの切削も、適切なディスク材とツール選択によってスムーズに行えるとの評価があります。このように症例適応範囲の広さは、導入ラボが幅広い受注に対応するうえで大きな強みと言えるでしょう。
価格帯・コスト: inLab MC X5の本体価格は約700万円前後と、歯科技工用ミリングマシンの中でも上位クラスの価格帯です[10]。加えてフルデジタルラボ運用には、高精度スキャナー(例:inEos X5・定価約300万円[10])や焼成炉(インラボProFire・約175万円[10])など周辺機器も必要となるため、初期導入コストは総計で1000万円近くになる場合もあります。ただし生産効率やコスト削減効果を考慮すると投資対効果は高いとの指摘もあります。実際、本機導入により外部発注していたジルコニアフレームやカスタムアバットメントの内製化が可能となり、外注費用・納期の削減につながったというラボ報告があります[20]。また、デンツプライシロナや提携メーカーから提供される純正材料・ツールを使用することで、加工精度が安定し再製作リスクの低減や装着後のトラブル減少につながり、長期的なコストメリットが得られるとされています。ランニングコスト面では、切削バー等の消耗品価格は1本あたり数千~数万円と高価ですが、コーティング済みバーの採用で従来比大幅に寿命が延びているため[21]、結果的に工具交換頻度は低減され経済的です。総じて、本機は高額ながらも高生産性によってコスト回収が見込めるという評価が一般的です[22]。
ユーザーの声: 実際にinLab MC X5を導入した歯科医院・技工所からは、その性能に関して概ね好意的な声が聞かれます。例えば東京都内のある歯科医院では、インプラント即日負荷の最終補綴物を1日で提供するために本機を導入し、「高精度かつ短時間で最終補綴物を仕上げられるようになった」と報告しています[26]。同院では「現行のセレックシステム中でも最新モデルで、日本国内でも導入している歯科医院は数えるほどしかない」と紹介しており、その先進性に患者も驚くケースがあるようです[27]。一方、技工所ユーザーからは「従来外注に頼っていた金属フレーム加工を内製化できた」「複数症例をまとめて加工することで夜間の無人稼働が可能になり、生産性が飛躍的に向上した」といった声が聞かれます。また、「オープン対応のおかげで歯科医から送られてくる口腔内スキャンデータにも柔軟に対応できるようになった」というデジタル連携面での評価もあります。反面、「導入コストは高いが設備投資に見合う働きをする」「メンテナンスや運用には専門知識が必要」との意見もあり、大型機ならではの覚悟も必要との指摘も見られました。総じてユーザーの声からは、本機が生産スピードと対応力を飛躍的に高める一方、十分な導入準備と運用体制の整備が重要であることが伺えます。
3. 類似製品との違い・差別化ポイント
旧モデル(inLab MC XL)との比較
デンツプライシロナ社内で比較した場合、従来モデルのinLab MC XLとの違いは顕著です。MC XLは主にブロック素材対応の4軸ミリングマシンで、チェアサイド型CERECシステムにも用いられる高速小型機でした。一方のMC X5は5軸制御+ディスク対応へと進化したことで、対応できる症例・材料の幅が飛躍的に拡大しています。例えばディスク素材を加工できるか否かは大きな差で、MC X5がØ98.5mmディスクからフルアーチブリッジを一括削り出しできるのに対し、MC XLはディスク非対応のためブロック連結による部分的な対応に限られます[28]。また軸制御も、MC X5が5軸(A軸連続回転+B軸±20°傾斜)でアンダーカットを伴う形態にもフレキシブルに対応できるのに対し、MC XLは4軸(ブロックを±180°回転させつつ前後2軸で切削)で対応範囲に制約があります[29]。
歯科用CAD/CAMミリングマシン市場には、デンツプライシロナ以外にもローランドDG(DGSHAPE)社やVHF社、アマンジラーバッハ社、ジーシー(Aadvaシステム)など多数の競合製品があります。その中でinLab MC X5の差別化ポイントとして挙げられるのは以下のような点です。
オールインワンの加工機能: MC X5は湿式・乾式両対応を1台で実現していますが、他社では用途ごとに機種を分けるケースもあります。例えばローランドDG社の場合、ジルコニアやレジン用の乾式専用機(DWX-52D/52DCiシリーズ)とガラスセラミックス用の湿式専用機(DWX-42W)を分けて運用するスタイルが一般的です。これに対しMC X5は1台で材料に応じて自動でウェット/ドライ加工を切替できるため、装置台数を抑え省スペースで多様な加工に対応できる強みがあります[13](※切替時の洗浄・乾燥は必要ですが、追加のセットアップ時間はほぼ不要です[33])。
金属加工への対応: MC X5は公式にシンターメタル(焼結前金属)やチタンプレフォームの加工対応が謳われており[36][37]、チタンアバットメントプレミリングブロックの切削など一部金属加工にも対応可能です。対して一般的な卓上ミリング機(ローランドやVHFの一部モデル)は主に非金属材料に特化しており、金属(特にコバルトクロムやチタン)の切削には対応していないか限定的です。仮に金属対応であってもクーラント循環や高剛性スピンドルが必要になるため、運用ハードルが上がります。その点、MC X5はウェット加工機能と高トルクスピンドルによりラボ内で金属系材料を扱える余地を残している点で差別化できます(※実際の金属切削は難度が高く、専用機に任せるケースも多いですが、将来的な可能性も含めて柔軟性があります)。
システム統合とサポート: デンツプライシロナ製品で統一した場合、ワンストップのサポート体制やエコシステムの利点があります。inLab MC X5は同社スキャナー・CADソフト・材料・焼成炉まで含めた包括的システムの一部として設計されており、トラブル時のサポートやソフトウェア更新も統合的に受けられます。一方、他社製ミリング機は独立系が多く、スキャナーやソフトは別メーカーを組み合わせて使うことも一般的です。その場合それぞれのベンダーからサポートを受ける形となりがちですが、シロナ製品群で揃えれば一括したトレーニングやメンテナンス支援を受けやすい利点があります。また、ブランド力・信頼性の面でも、シロナは歯科CAD/CAM分野のパイオニアとして歴史が長く、CERECシステム以来の実績とノウハウを重視してあえてMC X5を選ぶ技工所もあります。極論すれば「価格より信頼性を優先する層」にとってMC X5は有力な選択肢であり、ローランドなど競合機が「手頃で実用的」なのに対して、MC X5は「先進的で包括的なソリューション」という位置づけとも言えるでしょう。もっとも近年では他社製品も性能向上が著しく、オープン性や加工精度では大差なくなりつつあります。差別化のポイントはサービス体制や運用哲学の違いにシフトしており、ユーザーのニーズ次第で評価が分かれる部分と言えます。
4. この製品が向いているユーザー像
デジタル技工の内製化を積極的に進めたい歯科技工所や大型歯科医院が、inLab MC X5の主なターゲットユーザーです。具体的には、日常的にジルコニアクラウンやインプラント上部構造など多数の補綴物製作を行っており、幅広い症例を自社で一貫製作して納期短縮や品質管理を図りたいラボに適しています。複数の歯科医院からデジタル印象データを受け取って作業するような歯科技工所では、本機のオープン連携と生産力が大いに役立つでしょう。また、例えばインプラント即日治療など高度先進的な治療を掲げる大型歯科クリニックにも適した機器です。実際、院内に技工設備を備える一部の歯科医院(口腔外科・インプラント専門クリニック等)では、本機を導入することでその日のうちに最終補綴物まで製作できる体制を構築し、他院との差別化を図っています[27][26]。こうしたケースでは患者サービス向上に直結するため、投資額に見合うリターンが得られる好例と言えます。